同志社大学法科大学院

教育体制

松本哲治 教授(公法)

松本哲司 教授

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法科大学院ではどういう授業の方法を採られていますか?

 まず、1L(法科大学院1年生・未修者)の授業については、一通り基本を確認することに重点を置いています。一方的に講義するだけではなくて、事前に配布した質問事項を順番に問うていっていますので、現在の法科大学院の中では、比較的双方向性を重んじている方ではないかと思います。
 これは、効率的な知識の伝達方法ではないという先生もおられて当然だとは思いますが、しかし、知識を効率的に伝達するだけであれば、本来は、教科書を読んで、判例を読んで、演習書を読んで自分で勉強すればいいはずなんですよね。旧司法試験だと、そうやって皆さん合格されていったのではないでしょうか。
 ただ、法律学はかなり専門性・技術性の高い学問ですしね。初学者は、専門家が思いもしないようなところで迷い道に入り込んだり、思い違いをして遠回りをするということがあります。理解の進捗度合いを具体的にみながら、道案内をするという点で、上のような方法は最も適切だと考えています。
 幸い、定評ありながら長らく改訂されていなかった佐藤幸治教授の教科書が、新装なりました(日本国憲法論〔第2版〕)・成文堂・2020年)ので、判例集とあわせて、ともかく憲法の全体を一読・一巡するというつもりで、1Lの2科目(春学期・憲法講義Ⅰ=基本的人権、秋学期・憲法講義Ⅱ=統治機構。いずれも2単位)を担当しています。
 必修科目ではありませんが、憲法基礎演習Ⅰ、憲法基礎演習Ⅱもありますので、スローガン的に言えば、1Lの終わった時点で、司法試験の短答式試験は全部解けるはずだ!ですかね(笑)。

2L(未修者の2年目、既修者の1年目)になるとかなり変わりますか?

 そうですね、2Lの場合は、学部か1Lで基本は一通り学んでいるはずなので、完全に双方向で、特に重要な判例、理解の難しい論点に絞って、しっかり考えてもらうようにしています(春学期・憲法演習Ⅰ・2単位)。その分、網羅性は保証できませんが、司法試験の論文式試験を念頭に置く限り、この段階までの学習がちゃんとできていれば、まずまずそれでほぼ十分だと思っています。

3Lではどんな授業を?

 3Lでは憲法演習Ⅱ(春学期・1単位)が必修です。この科目では、憲法訴訟論を押さえつつ大半は、司法試験スタイルで事例問題を用意して、予習の段階でどう解決するかを考えてきてもらって、双方向・多方向で検討するというスタイルでやっています。資料や条文は、場合によってはすこし多めに付して、院生諸君には呻吟してもらうことにしています。さらに、憲法について、もっと実践に備えたいという人には、選択必修科目で憲法総合演習Ⅰ(春学期・1単位)、憲法総合演習Ⅱ(秋学期・1単位)でやはり事例問題の演習をうけることができます。これまたキャッチフレーズをつけるのであれば、「新司法試験のための高地トレーニング」が3Lの授業のつもりです。
 3Lの授業の課題は、可能であれば次の時間にレポートとして書いてもらって、その添削結果を全体で共有するようにしています。

新司法試験を強く意識されているようですが法科大学院ではそのような予備校的教育はよろしくないとされているのではないのですか?

 その点については、いったいどのような予備校教育がよろしくないとされているのかをはっきりさせるべきでしょう。なにも考えずにとにかく知識を覚えるだけだとか、小手先のテクニックで効率よく短答式試験を解いたり、論文式試験で得点を稼いだりということを標榜するのであれば、それは問題であるという立場もあろうと思います。
 しかし、法科大学院教育は、従来の旧司法試験による「点」での選抜が望ましくないとの考え方から、法曹養成の主要過程を本来「知のカオス」であるはずの大学に置き、その教育課程をきちんと修了しているかどうかを(新)司法試験で確認する、というコンセプトに基づくものです。
 そうであるとすれば、法科大学院教育は自ずから司法試験の対策になるような教育でなければならないし、また、司法試験は、法科大学院教育が自ずからその対策となるような試験でなければならないということです。これは、言うは易し、行うは難しという側面のあることではありますが、忘れてはいけないポイントだと思います。

授業以外ではどのような教育をされていますか。

 オフィス・アワーと、指導教員になっている院生の指導ですね。オフィス・アワーは、授業についての質問や、演習問題に答案を書いてみましたというグループの対応で、時間的には少しオーバーフロー気味です。指導教員になっている院生への指導の機会を比較的オープンに活用することで、院生諸君の需要をなんとか満たそうと工夫しているところです。ここ数年間、他の公務との関係でいろいろと制限があって、院生諸君の希望に応えるのが難しいところがありましたが、再び元通りになると思います。

先生のご研究について教えていただけますか。

 そうですね。法科大学院の教育は上に述べましたようにいろいろと手間暇がかかりますが、法曹養成の主要過程を本来「知のカオス」であるはずの大学に置くのですから、研究あっての教育です。この点は、同志社大学は揺るぎなくその理念を堅持していただいていると感じております。
 私は上に出てきた佐藤教授のところで憲法の研究を始めましたので、アメリカ法を比較の対象としつつ、人権の基礎付け論などから経済的自由権、自己決定権といったことについて関心をもってきました。これは当然、憲法訴訟論的な関心を必然的に伴います。有斐閣のリーガル・クエストでも、既刊の統治機構では司法権、憲法訴訟、地方自治を、これから出る人権の巻では、人権総論と経済的自由権を担当しています。日本人は、福祉・平等・調整といった観念に親近感を感じる傾向があるように思いますが、自律・自由・市場といった観念にもう少し適切な位置づけを与えるべきではないかというのが私の研究の基本的な方向性だと思っています。
 私の世代の研究者が学生だった頃から考えると、立法も最高裁判例の展開も、非常に活発で、柔軟になってきています。公法の研究者としては、その意味で幸福な時代に生を受けたと思っておりますし、それは、法科大学院という制度とも、法科大学院における教育とも連動していると感じております。

同志社の印象はいかがですか。学生へのメッセージをお願いします。

 やはりいい学校だと思いますね。
 この4月で着任して10年になりますが、大変気持ちよく仕事をさせていただいています。
 院生諸君も、非常に大人だなと思いますね。
 とくに言いたいことというのもありませんが、私は学部・大学院を出た後、同志社大学大学院司法研究科が4つ目の大学、5つ目のファカルティです。
 そういう目で見ると、やはり学生諸君は恵まれていると思いますね。
 その環境を大いに活かして所期の目的を実現してほしいと願っています。

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