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私は、法理学が専門ですので、法理学をはじめとして、法学基礎講義、現代人権論、法情報調査・文書作成入門、法文化論Ⅰを担当します。法理学は、法哲学と呼ばれることもある基礎法の分野で、「正義とは何か」「権利思考はどのような意義と限界を持つか」「自由と平等はどのような関係にあるか」などの理念的な問いを扱います。授業では、法科大学院生にも関心を持ってもらえるように、これらの問いを、判例や実際の紛争に引き寄せて考えてもらいます。そのため、法科大学院での講義を念頭に作成された法理学のテキストを用います。法学基礎講義では、各実定法分野の基礎的理念やそれぞれの視点の違いを、法哲学的・法思想史的な観点を交えて説明します。現代人権論では、憲法上の人権、国際的人権論における現代的諸相について掘り下げます。法情報調査・文書作成入門は、法的思考の基本とそれに関するインプットとアウトプットについて学ぶ科目です。他の法科大学院でも、法情報調査の科目を法理学の教員が担当することがあるのは、法理学が、個々の実定法を扱うわけではないけれど、実定法科目に共通する「法」の性質とは何か、法的思考とはどのようなものか、について議論を重ねてきた学問分野であるためです。
基礎法は司法試験における試験科目には含まれていないので、学生のみなさんにとって、法理学などの基礎法科目を学ぶことの意味が、目に見えては分かりにくいかもしれません。私は二つの意味があると思います。まず一つ目は、先ほどの法情報調査・文書作成入門についても述べたように、法理学は、「法とは何か」と問う学問ですから、法学における最初の問いで、また最後の問いでもあるのです。ですからこの問いについて全く考えないで、法を学ぶあるいは法実践に携わるということはあり得ないのです。もちろん、みなさんは実定法の個々の科目や、裁判や、政治や、広く社会について知識と経験を積む中で、「法とは実際何であるのだろう」と自分の頭で考えることができますが、その際、基礎法の豊富な学問的資源に触れたことがあるかないかで、その考えの深さや、他の理解との比較検討の可能性が全く違ってくるはずです。二番目には、法理学などの基礎法の勉強では、自由に考えをめぐらして、時には奇想天外なことを考えて、それを授業で発言しても、全然叱られない(笑)から、とても楽しいのです。勉強は楽しいことが一番です。そして、基礎法を通じて、いったん法学の楽しさに気付けば、試験科目も含めた勉強もどんどん進むと思います。
私は未修者の指導教授になることが多いのですが、これまで法的思考になじみのない人は、法的議論の仕方がよくわからず、ポイントがずれていることがあります。そこで、三段論法や判例における理由づけの方法を丁寧にみたり、基本書を一緒に読んでどこがポイントなのかを確認したりしています。それから、勉強以外の相談をされることもよくありますので、そんなときは結構雑談しています。今の若い人たちの考え方をきいたり、昔の自分と同じようなことで悩んでいるなあと思ったり、話を聞くのはなかなか面白いです。
ロースクールでの生活は、授業や試験勉強で机に向かっている時間が多いでしょうが、これを知的好奇心を満たす刺激的な時間とするかどうかはみなさんしだいです。格差社会、高齢化、環境問題など世の中は問題だらけです。問題意識を広く持って学習に取り組んでほしいと思っています。
近年グローバル化を背景として、商取引の国際化や多国籍企業の活動、NGOその他の民間団体の国境を超えた活動がさかんになっています。これらの活動に対して、各国の国家法では対処することが難しい場面が多いのですが、だからといって、無規制であれば様々な問題が生じます。私は国家法と非国家法をともに「法」と捉える法多元主義の立場に立ち、業界の自主規制、NGOによるコード・オブ・コンダクト作成や認証システム、また、スポーツ法やインターネット法などにおける現代的な法現象に関心を持って、その仕組みや課題を研究しています。