同志社大学法科大学院

教育体制

横田光平 教授(公法)

横田光平 教授

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シンプルで分かりやすい行政法

最初は分かりづらくても

 みなさんは、行政法という科目についてどのような印象を持っているでしょうか。他の科目に比べれば簡単だと思っている人もいれば、逆に他の科目とは勝手が違って難しいと感じている人もいると思います。行政法が難しいと苦手意識を持っている人は、教科書に書いてあることが抽象的でつかみどころがない、あるいは裁判例や事例問題でいろいろな個別法が次々に出てきて対応しきれないと思っているのではないでしょうか。
 しかし、私は、少なくとも司法試験に関しては、行政法はみなさんが思っているよりはるかに分かりやすい科目であると考えています。最初はとっつきにくく分かりづらい科目だと感じたとしても、いったん行政法はこんな感じかとコツをつかみさえすれば、そのあとは安定的に良い成績を残すことができるようになります。個別法は様々でも、行政法の論点自体は他の法律科目ほど多くないからです。
 もっともそう言われても、今行政法の学習で困っている人には信じられないかもしれません。
 実は私自身も初学者の頃、行政法総論がよく分からず、このままだと単位が取れないのではないかと焦って行政法総論だけを集中的に勉強したことから今に至っています。1回1回の授業で学ぶことは分かるのですが、前回の授業と今日の授業の内容がどのような関係に立つのか、今日の授業が行政法全体の中でどのように位置づけられるのか、最初は全くみえていませんでした。しかし、自分のノートを繰り返し読み返すうちに、ノートの最初の方のこの論点とノートの最後の方のこの論点はつながっているのではないかと気づくようになり、しだいに行政法の論点相互の関連性が見えてきて、行政法の全体像がおぼろげながら見えてきたように思います。
 行政法の諸論点は、教科書の目次の位置が互いに離れていても相互に多様な形で関連しあっており、そのことが分かってくると、今まで断片的でバラバラだった行政法の理解が次々と相互につながっていき、急に霧が晴れるように視界が開け行政法が見えてきます。

シンプルな行政法理解のために

 そのためには、行政法の全体を見通すという意識で基本的な論点について基礎から正確に理解することが重要であると私は考えており、これが私の基本的な指導方針です。
 例えば私の授業では繰り返ししつこく根拠規範、根拠規範…と言い続けています。行政法の重要論点の多くは根拠規範に関わっており、根拠規範を中心に理解することで様々な論点がつながって行政法理解がシンプルになります。
 根拠規範について教科書では最初に「法律による行政の原理」の目次の箇所で説明されていますが、実はそこでは具体的に何が根拠規範であるか説明されていないことが少なくありません。しかし、具体的に何が根拠規範であるかは、「法律による行政の原理」の考え方の基礎に関わっており、この点を正確に理解することが出発点となります。
 多くの場合、根拠規範は、行政活動を根拠づけるため、① 誰が(行政機関)② どういう場合に(要件)③ どういうことができるか(効果)を定めています。多くの行政紛争においては、この3点を定める根拠規範に照らして、具体的な行政活動が(① 権限と)② 要件のあてはめと③ 効果の選択において適法であるか否かという形で行政活動の適法性が問われます。そして、行政裁量論でいえば② 要件のあてはめに裁量が認められるのが要件裁量であり、③ 効果の選択に裁量が認められるのが効果裁量です。「法律による行政の原理」と「行政裁量」は合わせて理解すべきです。さらに行政手続法上の理由提示も、② 要件のあてはめについての理由提示と③ 効果の選択についての理由提示がともに求められるのであり(最判平成23年6月7日のもう一つの意義)、ここまで関連付けて理解したいところです。
 一方、行政救済法の重要論点である処分性は、判例公式によれば根拠規範の③ 効果の定めの解釈問題であり(「法律上認められているもの」)、第三者の原告適格も、判例公式によれば根拠規範の② 要件の定めの解釈問題です(「法律上保護された利益」)。
 このように教科書の目次の上で離れている論点同士の密接な関係が見えてくると、いろいろな話がつながってきて、複雑で混沌とした姿であった行政法が非常に分かりやすくシンプルに見えてくるようになります。

個別法の経験値を上げる

 もっとも、個別法は様々であり、初めて見る法律にどう対応していいか分からないという人もいるでしょう。これも私の個人的な経験ですが、大学院に進学した段階で判例研究会に参加した際、初めて目にした法律の仕組みを前に、それまで学んだ教科書の知識では対応できず、「行政法ってこういう法律科目だったのか」と愕然とした記憶があります。法科大学院では、当該事案で問題となっている個別法律の条文の構造を正確に捉えることを学ぶのですが、その方法は通常の教科書には書いてありません。
 行政法研究者は個別法の解釈の経験を重ねて「職人技」を身につけていきますが、様々な個別法の仕組みを読み取る「技」を一般的な形で言語化することは容易ではありません。結局、学生のみなさんは、できる限り多くの事例と向き合って個別法を丹念に読み解き自分の頭で考えることを繰り返しながら経験値を高めていくしかないのです。
 ここで何か手っ取り早く結論にたどり着く方法がないかという方向に走ってしまうと、道をはずれて迷走してしまいます。「こういう場合はこう書けば良い」といった学問的根拠のない「思いつき」の類が巷にはあふれていますが、経験値の裏付けが乏しく、検証も十分でないため、その方法ではうまくいかない場合も多く、その場合には全くの見当外れになってしまいます。それでは個別法を丁寧に読み解く力はつきません。
 もっとも、法科大学院での限られた時間内に経験を重ねていく余裕はないと思われるかもしれません。しかし、多種多様に見える個別法も、実は制定される際に既存の他の法律を参考にしていることが多く、法的仕組みを作り上げていく時の発想は似ていることが結構あります。したがって、限られた時間の中でも裁判例や裁判例を素材とする事例問題の勉強を重ねていくことで、ある程度は何となくこういう感じかという感覚が身についてきます。
 そこで、法科大学院では、重要な行政法判例を丁寧に分析して理解する演習授業の後、事例問題を素材とする演習授業において、学生1人1人が自分の頭で考える経験を積んでいくために、事例問題の答案提出を求め、これを添削して授業の教材としています。その際、言語化できる「技」は折にふれて伝えていくことで、少しでもみなさんの経験値をより効果的に高めていくためのサポートができたらと考えています。

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