同志社大学法科大学院

教育体制

笠原宏 教授(経済法)

笠原宏 教授

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Q.担当分野は何ですか?

A.経済法です。経済法は司法試験の選択科目であり、本学では、経済法Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ及び経済法総合演習を「D 展開・先端科目Ⅰ」として、また、「競争法の国際比較」を「E 展開・先端科目Ⅱ」として、計5科目で教えています。同じく「E 展開・先端科目Ⅱ」として国際経済法も担当しています。

Q.経済法の授業は、どのような方針で行われますか?

A.経済法は、独占禁止法を中核として、下請法、景品表示法、入札談合等関与行為防止法などを包含するもので、企業が事業活動を行うに当たっての基本的なルールを定めているものです。
 経済法Ⅰ及びⅡでは、我が国独占禁止法の法制度や解釈に関する重要論点の解説を行います。独占禁止法の重要論点は、公正取引委員会での法運用実務をめぐって発展、進化してきたものであることから、法運用実務に30数年携わってきた行政経験に基づく授業、解説を行います。
 経済法Ⅲと経済法総合演習では、演習形式で、経済法ⅠとⅡで学んだ知識を実際の事案に当てはめる訓練を行います。事例に当たって、自分の考え方を述べてもらい、それを一緒に検討することで、事案処理能力(論点抽出、要件の分析整理、結論を導く方法)と、法律の解釈適用結果を示す文書として表現する力を涵養することを目指します。
 競争法の国際比較では、最近の競争法の顕著な傾向として、グローバル・スタンダードへの収斂が進んでいることを踏まえ、我が国の競争法制度を 体系的に理解するために米国、EUという競争法の2大潮流との国際比較について学習します。
 国際経済法は、国際貿易・通商の自由化・活性化とそれを担保するための秩序を目指しており、経済法・競争法と相通じるところがあります。国内の経済法とは異なる素材を使って、経済活動に対する規律の在り方についての基本を身に付けてもらうことを目指しています。

Q.法科大学院で経済法を学ぶ意義は何ですか?

A.第一に、経済法を専門とする法曹に対する経済社会のニーズが高まっていることが挙げられます。少なくみても、この30年以上の間、独占禁止法は、執行と違反行為抑止の強化に向けて一貫した方向で運用されてきています。さらに、最近では、価格カルテルや入札談合だけではなく、多様な行為が独占禁止法違反事件の対象となっています。その中で、課徴金制度の拡充を初め、独占禁止法違反行為のリスクは大きくなり、これに予防・対処双方の面から備えることが多くの企業にとって必要となり、専門の法曹へのニーズが高まっているのです。
 第二に、必ずしも経済法を専門としない法曹にとっても、経済法についての知識・感覚を身に付けておくことの必要性が高まっています。経済法への理解が広がる中で、対公正取引委員会だけでなく、企業間でも様々な紛争や交渉において独占禁止法や下請法との問題を指摘しながらの議論がなされることが増えています。このため、企業活動のいずれの面に関わる法曹にとっても、経済法との関係での制約や難しい局面打開のためのツールとして経済法の知識や感覚を持っておくことは有用です。
 第三に、独占禁止法のように競争の促進を目的とする法律は国際的には競争法と呼ばれていますが、この20年以上、世界の競争法は、先進国では執行の厳格化が、途上国では競争法の導入と積極的な執行が潮流となっております。今や、競争法を有する国や地域は130を超え、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの殆どで競争法が施行されていますし、今後、日本企業にとっても重要な活躍の場となることが期待されるアフリカでも競争法導入の動きが進んでいます。
 海外で活動する日本企業にとって、これら海外の競争法に違反することのないよう、法律の知識を持つことは当然必要ですが、競争法が、企業の市場行動、経営戦略に大きな影響を及ぼすことから、国内にいて外国企業と取引するに当たっても、その行動や戦略に影響する競争法についての基本的理解をしておくことが非常に重要になります。
 第四に、経済法は、企業の経済活動の基本を規律する法律ですから、一定の市場環境の下で企業はどのような行動を採るのか、逆に企業の行動が市場にどのような影響をもたらすのかということについての理解なくして、運用も理解もできません。この経済活動と影響のメカニズムについての理解というものは、およそ経済活動に関わる制度やシステムの在り方を理解し、適切に活用したり運用したり、評価したりする上で不可欠です。法曹として活動する場合に限らず、社会人・有権者としても、このようなことについての理解をもって、社会に向き合う人が増えていくことが重要です。これは、本来であれば、少なくとも高等教育を受ける人全てに期待したいところですが、特に、社会を動かすルールである法律を深く学ぶ法科大学院生には、是非身に付けて欲しいと思っています。

Q.独占禁止法は、他の法律に比べて規定が抽象的で、何が問題になるのかが分かりにくいという印象がありますか?

A.第一印象としては、理解できます。私が本学に奉職する前に長年勤務していた公正取引委員会で、他省庁から出向してこられた方や、出向や任期付きで来られた法曹の方からすらも、そのような感想を聞かされたことが何度もあります。そう言っていた方が、しばらくすると、元からの公正取引委員会職員だったのではないかと思うほど、見事に使いこなされています。
 競争法としての独占禁止法は、需要者がより評価するものを提供することによって取引を増やし、利益を挙げる方向に企業努力が集中するようにすることで、経済社会の発展と国民の経済的利益の拡大を目指すもので、これを妨げる行為を規制している法律です。したがって、一定の市場環境の下で企業はどのような行動を採るのか、逆に企業の行動が市場にどのような影響をもたらすのか、ということについての基本的な理解をしていれば、何を規制すべきかということについては、自ずと見えてくるようになります。これは、経済「学」や経済「理論」を本格的に学ぶというほどのことではなく、経済の基本的な仕組みについての理解ということです。公正取引委員会は、近年、ガイドラインを充実させて、その中で、法解釈・運用の前提となっている経済的な理解についても明らかにすることに努めています。授業でも、ガイドラインや実際の事例の処理において、どこにどのような競争制限効果があったから、あるいはなかったから、結論に至ったのかを示していくことで、理解をしてもらえるようにしています。

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