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教員からのメッセージ


松本 哲治 教授
Q: 法科大学院ではどういう授業の方法を採られていますか?
A: まず、1L(法科大学院1年生・未修者)の授業については、一通り基本を確認することに重点を置いています。一方的に講義するだけではなくて、事前に配布した質問事項を順番に問うていっていますので、現在の法科大学院の中では、比較的双方向性を重んじている方ではないかと思います。
これは、効率的な知識の伝達方法ではないという先生もおられて当然だとは思いますが、しかし、知識を効率的に伝達するだけであれば、本来は、教科書を読んで、判例を読んで、演習書を読んで自分で勉強すればいいはずなんですよね。旧司法試験だと、そうやって皆さん合格されていったのではないでしょうか。
ただ、法律学はかなり専門性・技術性の高い学問ですしね。初学者は、専門家が思いもしないようなところで迷い道に入り込んだり、思い違いをして遠回りをするということがあります。理解の進捗度合いを具体的にみながら、道案内をするという点で、上のような方法は最も適切だと考えています。
幸い、定評ありながら長らく改訂されていなかった佐藤幸治教授の教科書が、新装なりました(日本国憲法論・成文堂・2011年)ので、判例集とあわせて、ともかく憲法の全体を一読・一巡するというつもりで、1Lの2科目(春学期・公法講義Ⅰ=基本的人権、秋学期・公法講義Ⅱ=統治機構。いずれも2単位)を担当しています。
スローガン的に言えば、1Lの終わった時点で、新司法試験の短答式試験は全部解けるはずだ!ですかね(笑)。これ、認証評価はともかく、誇大広告で捕まりませんか?
Q: 2L(法科大学院2年生。未修者の2年目、既修者の1年目)になるとかなり変わりますか?
A: そうですね、2Lの場合は、学部か1Lで基本は一通り学んでいるはずなので、完全に双方向で、特に重要な判例、理解の難しい論点に絞って、しっかり考えてもらうようにしています(春学期・公法演習Ⅰ・2単位)。その分、網羅性は保証できませんが、新司法試験の論文式試験を念頭に置く限り、実は出題範囲は限られていると思いますので、この段階までの学習がちゃんとできていれば、それで十分だと思っています。ただ、念のため、1L用の教材も配付して基本は各自チェックしてもらっています。
Q: 3Lではどんな授業を?
A: 3Lでは公法演習Ⅲ(春学期・2単位)が必修になりました。これまでは、1Lの公法講義ⅠⅡを除くと、2Lの公法演習Ⅰだけが憲法の必修科目だった訳ですが、それでは少し少ないだろうということで、あらたに科目が設けられました。この科目の前半は、公法演習Ⅰにつづいて、重要論点・難解な論点を取り上げます。後半は、新司法試験スタイルで事例問題を7、8問用意して、予習の段階でどう解決するかを考えてきてもらって、双方向・多方向で検討するというスタイルでやることになっています。資料や条文は、かなり多めに付して、院生諸君には呻吟してもらうことにしています。さらに、憲法について、もっと実践に備えたいという人には、選択必修科目で公法総合演習Ⅰ(秋学期・1単位)でやはり事例問題の演習をうけることができます。
法曹養成に携わる者として、それでいいのかという声は上げていかなければいけませんし、上げているつもりですが、ただ、問題は、目の前の受験生である院生諸君にどういう教育をするか、です。これはやはり、2時間で解けるのだろうか、という問題を見ても動じない心、なんとかできる実力を身につけていただくしかありません。
院生諸君からは不平の声も聞こえそうですが、これまたキャッチフレーズをつけるのであれば、「新司法試験のための高地トレーニング」が3Lの授業のつもりです。
3Lの授業の課題は、何通かを希望者に割り当ててレポートとして書いてもらって、その添削結果を全体で共有するようにしてもらっています。この方式は1Lや2Lでも活用しています。
Q: かなり新司法試験を意識されているようにお話を伺いましたが、そういうのはいわゆる予備校教育で、法科大学院ではよろしくないとされているのではないのですか?
A: その点については2つ、考えていることがあります。 1つは、いったいどのような予備校教育がよろしくないとされているのかをはっきりさせるべきだということです。なにも考えずにとにかく知識を覚えるだけだとか、小手先のテクニックで効率よく短答式試験を解いたり、論文式試験で得点を稼いだりということを標榜するのであれば、それは問題であるという立場もあろうと思います。
しかし、法科大学院教育は、従来の旧司法試験による「点」での選抜が望ましくないとの考え方から、法曹養成の主要過程を本来「知のカオス」であるはずの大学に置き、その教育課程をきちんと修了しているかどうかを新司法試験で確認する、というコンセプトに基づくものです。
そうであるとすれば、法科大学院教育は自ずから新司法試験の対策になるような教育でなければならないし、また、新司法試験は、法科大学院教育が自ずからその対策となるような試験でなければならないということです。これは、言うは易し、行うは難しという側面のあることではありますが、忘れてはいけないポイントだと思います。
もう一つは、今の最後の点とも関わるのですが、新司法試験の憲法の出題の仕方と公表される出題趣旨・採点実感(いずれも司法試験委員会が合格発表後、またはそのしばらく後に公表する文書)の内容に関することです。憲法では、ある程度詳しい事実関係が、資料とともに与えられ、民事訴訟の原告の訴訟代理人なり刑事訴訟の被告人の弁護人だったらどんな憲法上の主張をするか、それに対してどんな反論が想定されるか、そしてあなたならどう考えるか、ということを問うのがパターンなのですが、これに対する答え方の作法や形式について、とくに採点実感で、詳しく述べられています。
それはある意味ではいいことなのですが、どうも私が納得しかねるのは、この作法や形式が、問題文から論理必然的に読み取れる内容ではないのですね。これっておかしくないですか?もちろん、今となれば、過去の出題趣旨や採点実感を読んでおけばよいということなのかもしれませんが、どうも釈然としません。論理必然的に読み取れるのであれば、法科大学院の教員は、「まともな」教育だけをして、あとは試験問題にぶつかりなさい、でよかろうと思います。しかし、論理必然的に読み取れないときにも、それでいいのか。加えて、以上のような問い方のパターンと公表されている望ましい解答方法から示唆される学習されるべき内容、記憶しておかなければならない知識というのがあるように思うのですね。これはやはり、教員としては、意識して授業の設計や教材の記述を考えないといかんということになるのではないかと思っています。少なくとも、ある程度、以上の点を踏まえた方向付けや誘導は、必要だろうというのが、現在の院生諸君を担当していての私の実感です。まぁそのためだけに授業をするとなると、いろいろ問題があるのかもしれませんが、補講や期末試験の講評会の機会は活用できるだろうと思っています。もちろん、そんなお節介はいらないよという人もおられるのでしょうけどね。
Q: 補講や講評会のお話も出ましたが、授業以外ではどういう教育をされていますか。
A: オフィス・アワーと、指導教員になっている院生の指導ですね。オフィス・アワーは、授業についての質問や、演習問題に答案を書いてみましたというグループの対応で、時間的には少しオーバーフロー気味です。指導教員になっている院生への指導の機会を比較的オープンに活用することで、院生諸君の需要をなんとか満たそうと工夫しているところです。
Q: ええっと、こちらから先におうかがいするべきだったのかもしれませんが、先生のご研究についても教えていただけますか。
A: そうですね。法科大学院の教育は上に述べましたようにいろいろと手間暇がかかりますが、法曹養成の主要過程を本来「知のカオス」であるはずの大学に置くのですから、研究あっての教育です。この点は、同志社大学は揺るぎなくその理念を堅持していただいていると感じております。
私は上に出てきた佐藤教授のところで憲法の研究を始めましたので、アメリカ法を比較の対象としつつ、人権の基礎付け論などから経済的自由権、自己決定権といったことについて関心をもってきました。これは当然、憲法訴訟論的な関心を必然的に伴います。有斐閣のリーガル・クエストでも、既刊の統治機構では司法権、憲法訴訟、地方自治を、これから出る人権の巻では、人権総論と経済的自由権を担当しています。日本人は、福祉・平等・調整といった観念に親近感を感じる傾向があるように思いますが、自律・自由・市場といった観念にもう少し適切な位置づけを与えるべきではないかというのが私の研究の基本的な方向性だと思っています。
もともと少子高齢化で経済規模が縮小していくのではないかというところに、震災、とりわけ原子力事故と、話は暗くなる一方で、公法学としても考えないといけないことはたくさんあるんだろうと思います。この方面については、私もまだ十分考えられていませんが、しかし、平常心、通常の機構の機能というものからあまり興奮して観念的に遊離するのではない思考を続けていくことが実定法学にとってはまず肝要だと思っています。
私の世代の研究者が学生だった頃から考えると、立法も最高裁判例の展開も、非常に活発で、柔軟になってきています。公法の研究者としては、その意味で幸福な時代に生を受けたと思っておりますし、それは、法科大学院という制度とも、法科大学院における教育とも連動していると感じております。
Q: 最後になりましたが、同志社の印象はいかがですか。学生諸君に仰りたいことがあれば、一言お願いします。
A: やはりいい学校だと思いますね。
4月に着任して、司法研究科の憲法関係科目は上にご覧の通り、なぜかどの学年もほとんど前期に集中しているので、春学期の間はすこし忙しかったですが、大変気持ちよく仕事をさせていただいています。
院生諸君も、非常に大人だなと思いますね。
とくに言いたいことというのもありませんが、私は学部・大学院を出た後、同志社大学大学院司法研究科が4つ目の大学、5つ目のファカルティです。
そういう目で見ると、やはり学生諸君は恵まれていると思いますね。
その環境を大いに活かして所期の目的を実現してほしいと願っています。

(2011年9月)

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